星界の戦旗5巻について

星界シリーズは紋章の頃から好きでずっと追ってきたのですが、ネット上でネット右翼が活動するようになってからというもの純粋な目で見られなくなってしまいました。
その事についてブログで触れたいなーと思ううちにダラダラ伸びて、とうとう戦旗五巻が出て第一部完という時期に…。

戦記五巻『宿命の調べ』ではタイトル通りその宿命遺伝子が殊更に強調されていましたが、私個人としては正直気持ち悪くなりましたし、『アーヴによる人類帝国』は滅びた方が健全なのでは、と思いました。作戦上の犠牲は仕方ないにしても、それを嘆く内心の自由すら与えない宿命遺伝子なんて人権侵害以外のなにものでもないと思います。皆が皆冷静に、喜んで死んでいくなんて怖いですよ!
平面宇宙航法をするのに帝国は必ずしも必要ではないのでは、もっと自由に生きていいのでは、と。
人類統合体のアーヴに対する見方は作中では否定的に描かれていますが、アーヴが個人の意思を越えたそういう仕組みを受け入れているのでは、人類統合体からしてみればアーヴを生体機械と見做すのも当然ではあるのかな、と思いました。
紋章の時点だと帝政でありながらも上司に嫌味を言ったり趣味に走ったり、それぞれが個性に溢れていきいきして見えたんですけどねー。戦旗特に三巻以降はキャラに生気が感じられないです。物語が俯瞰的になったせいもあるのでしょうか。
生まれついてのアーヴのみならず地上世界出身であるフェブダーシュ前男爵の帝都残留をも淡々と描いている事から、必ずしも遺伝子のせいだけではないのかもしれませんが…。
ラマージュとラフィールの別れは多少感傷的でしたが。
帝都からの避難に際しての家族の扱いが地上世界出身者に不審を生んだという一節がありましたが、それが帝国への叛乱の萌芽になったりするのでしょうか。だとしたら期待です。しかしナルンの乱も結局はアーヴに近い身体能力のリンダだったから出来た事な訳で、普通の地上世界出身者だけでは叛乱はやはり無理でしょうか。
それにしてもこのくだりはおそらく、二巻までだったらその為に新しい登場人物を出して実際の生活に生身の目線で触れていたのでしょう。そうしたら印象も大分変っていた筈です。ディアーホ三部作が終わった四巻から急速にダイジェスト化が進行していますね。帝都陥落、遷都という流れはもっと巻数を費やして描いてもよかったのでは、と思いました。
ジントは前巻に引き続き影が薄いですね。相変わらず視点人物として得難い役目を持ってはいるのですが、ジント視点以外の場面が増えたので相対的に役割が軽くなっている。そもそも紋章が始まった時点で、世界観を描く上で現代人に近い感覚のジントの視点というのは絶対に必要だった訳で。そのジント視点無しでただアーヴ達を描かれるときついものがあるなあと思いました。
でも、前回のラストからするとあのままハニア連邦側に留まってラフィールとは離れ離れになるのかとも想像していました。ジントはこのまま軍にいたのではラフィールの側にいるのは無理なのでは、と思いましたがその辺は人員不足による出世とラフィールが皇太女になった事で何とかなるのでしょうか。
ジントには軍人として以外の活躍も期待したいところなのですが。戦死する前に子供をもうけておいた方がいいのでは…。せっかくマーティンを保護する為の仕組みを作っても、ジントの後継者がいなくては。
表紙のジントの童顔ぶりには騙されそうになりますが。実はジントも遺伝子調整を受けているのでは?と疑いたくなるくらいに若いですよね。

修技館入学を拒み続けて七十二歳の王子は面白かったです。詳しく知りたい。こういうエピソードがもっと描かれればいいのに!